<中央道トンネル崩落>脱出の人たち 恐怖と怒りで声震わせ

 崩れ落ちるコンクリート、炎上する車、充満する煙、「助けて」と叫ぶ声−−。山梨県大月市中央自動車道「笹子トンネル」で2日起きた天井崩落事故は、死者・行方不明者が出る大惨事となった。「トンネルががれきで埋まった」「もう怖くてトンネルを通れない」。車を乗り捨てて命からがら逃げ出した人々は、恐怖と怒りで声を震わせた。「取り残された人がいる」という情報にも、2次災害の恐れから救出作業は難航した。なぜ天井が落ちたのか。点検は適切だったのか。管理する中日本高速道路は「大変申し訳ない」と謝罪したが、安全への信頼は崩れ落ちた。


◇炎とクラクションの音「誰か、助けてください」

 甲府市の主婦(37)は、夫の運転する乗用車で山梨県富士河口湖町へ向かっていた。前の車が急ブレーキをかけたので車を止めると、約10メートル前方でトンネルの天井が落ち、ハッチバック式の乗用車1台が完全に潰れていた。「一面がれきの山で、とても誰かを助け出せるような感じではなかった。すぐに白い煙がその車から出てきた」という。

 潰れた車のボンネットから炎が出た。真っ暗でがれきの中は見えなかったが、クラクションの音が鳴り響いていた。「誰か、助けてください」。叫び声が何度も聞こえた。

 がれきの下の車から脱出した28歳とみられる若い女性が「彼が! 友達が!」と泣き叫びながら裸足で煙の中から現れた。口の周りは血だらけで、両手をやけどしていたようで血も付いていた。スプリンクラーの水でずぶぬれだった。女性は「何が起きたんですか? 何が起きたのか全然分からないんです」と繰り返した。主婦の夫が「車に何人乗っていたの?」と聞いても、取り乱した様子の女性は答えることができず、「消防や警察が助けてくれるよ」と励ました。

 主婦は自分のブーツを女性に履かせ、夫と若い女性の3人で出口(トンネル西側の入り口)の方へ逃げた。途中から別の女性も加わった。止まっていた観光バスで若い女性をいったん休ませたが、すぐに「やっぱり避難した方がいい」と再び歩き出した。車で逆走して避難する男性が同乗させてくれ、ようやくトンネルの外へ。負傷した女性を救急車に乗せることができた。難を逃れた主婦は「『誰か助けてください』という声が、今も耳の奥にこびりついていて離れない」と振り返った。【春増翔太】

 ◇「走っていた車がぺしゃんこに」

 長野県塩尻市の会社員、鈴木智博さん(37)は、妻にし紀(き)さん(38)と長男(9)、長女(6)の4人で山梨県富士吉田市へ向かう途中だった。「30〜40メートルくらい前でトンネル天井のコンクリート部分が全部ドスンと落ちた。下で車が1台完全に潰れていた」と語った。周りには大勢の人がいた。お年寄りの荷物を持つなどして、西側のトンネル入り口に向かって歩いて逃げた。

 にし紀さんによると、路肩はぬかるみが多かった。看板に頭をぶつけたり転んだりしないよう、声をかけあった。途中、非常口から出ようとした。しかし、先に非常口から出ようとした人たちが「出られない」と言っていたので、そのままトンネル入り口を目指した。にし紀さんは「とにかく火がいつ回ってくるかという不安でいっぱい、子供を逃がすことでいっぱいいっぱいだった」と振り返った。

 息子の運転で東京に向かっていた甲府市の山本勉さん(66)も間一髪で難を逃れた。「トンネルの半分近くの高さまでがれきで埋まった。前を走っていた白色の乗用車がぺしゃんこになり、火が出た」と声を震わせた。

 すぐに車を降りて逃げ、1時間ほど歩いてトンネルを出た。「一歩違えば巻き込まれていた。もう怖くてトンネルを通れない」と話した。

 妻と娘と東京に向かっていた長野県富士見町の自営業男性(50)は「天井が崩れて車が下敷きになり、クラクションが鳴りっ放し。別の車が燃えており、煙がトンネルに充満した」と話した。

 周囲の人同士で「避難しよう」と呼びかけ合った。トンネル内には「煙にまかれるので避難を」というアナウンスも流れ、車を置いて逃げたという。【山口香織、浅野翔太郎】

 ◇崩落事故ドキュメント

 8・00ごろ 事故発生

 8・07ごろ 消防に通報

 8・39 自力で逃げた女性を消防が救助。「ワゴン車に6人で乗っていて残りの5人は分からない」

 9・18ごろ トンネル西側から入った消防が現場の100メートル手前まで近づくが、爆発音が聞こえ、煙で前が見えず引き返す

 9・20ごろ 東側から入った消防が緊急避難口を使い救出活動を開始

 10・45 総務省消防庁が災害対策室を設置

 11・00ごろ 燃えていた軽乗用車の火災を鎮圧

 12・20ごろ 「トラックの運転手から『苦しい。助けてくれ』と電話があった」と卸売業者が119番通報

 12・48 2次崩落の恐れがあるとして、救出活動を中断

 15・00ごろ 中日本高速道路が記者会見し謝罪

 15・30 総務省消防庁に「焼けたワゴン車内に5人を確認」と地元消防から連絡

 17・15 消防が救助活動を再開

 17・35 がれきに押しつぶされたトラックの中に人を発見。呼び掛けに応じず

 22・07 トラックの天井をこじ開け男性を救出するが、心肺停止状態

 22・20 トラックの男性の死亡を確認

 23・40ごろ 山梨県警が、山梨ナンバーの乗用車内に人数不明の焼死体らしきものがあると発表

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