CMに謝るなんて

自分は悪くないのに、突然街中(まちなか)でチンピラに絡まれたりインネンつけられたら、謝ってしまう。そういうものだ。
何の話をしたいのかというと、チンピラに絡まれた話ではない。僕の周辺はいたって平穏だ。
RAIZINというエネルギー飲料らしき商品のCMを最近見る。甘くないというのが売りらしく、おそらくこぼしても床がべとついたり蟻が寄ってこないというメリットがあると思われる。まあとにかく、そういう商品の性格上か、CMはかなりトガった内容で、突然こちらに向かって「その年で自分探し?甘いんだよ」とか「僕は誉められて伸びるタイプだ?知るかよ」とか、そんな罵声を容赦なく浴びせてくるのだ。
僕は思わず、ごごごごめんなさいと心の中で謝ってしまった。確かに僕は心のどこかで本当の自分ってなんだろうとか考えたり、これだけやったんだから誰か誉めてくれないかなとか考えてしまった覚えがある。僕は心の鍛練が足りてないのだと思って、しばしこのCMの内容を反芻した。
そしてある日。ふとまたこのCMのことを思い出して、きっと世の中にもこのCMを見て自分を顧みる人ばかりなんだろうなと思って、ネットで調べてみた。
そしたらまさかの非難集中である。「不快なCM」「DQN」「言葉が汚い」そんなネガなレビューばかりだった。
そうか、と思った。僕はCMにあらぬインネンをつけられただけだったのかと気付いた。よく考えてみれば、僕はふと俺何やってんだろうなと振り返ることこそあれ、別に自分探しにカネや労力を注いでないし、誰かに評価されたいと思うのもまあ人として当然現れる感情なんだと思った。
だから、CMのことなんか気にしなくていいんだと救われた心地がした。何かおかしいと感じたら、その気持ちに素直になって真正面から否定すればいいんだ。接客業一筋で生きてきた僕のオヤジだったら、「お客様(視聴者)に対して暴言をつくCMなんてもってのほかだ」と切り捨てることだろう。
だが確かに僕は甘いかもしれない。CMなんかに心を乱され惑わされるなんて、まだまだ修行が足りないなと思う。