僕を維持する薬

8月の1日のことだった。毎月の最初の日は、どうしてもやらなければならない仕事があって、僕が入社して1年目にその仕事を教わった時、「月の最初の日は這ってでも来い」と言われ、それはいまだに呪詛のように僕の核心をなしている。なのでこの8月1日は朝から嫌な頭痛があったのだが、朝から嫌な頭痛があろうがなんだろうが、会社に行くしかなかったのだ。
会社に着いても頭痛はおさまるようすもなく、一向に覇気が湧かなかった。このころ、ナロンエースをラムネ菓子のように毎日1日3回計6錠を飲み続ける日々が続いていた。なので、この頭痛もきっと薬の過剰摂取が原因なんだろうと感じていてナロンエースを飲むのは控えていたのだが、10時頃我慢ならなくなりとうとうナロンエースを服用した。
これがとどめになってしまったのか、頭痛がなおひどくなり吐き気までしてきた。だがどうしても帰るわけにいかないので会社の休養室で少し横になることにした。2時間ほどだろうか、横になっていたら少し楽に、ならなかった。ならないのかよ。なれよ。
いつもなぜだか月の初めの日は奇跡に奇跡を重ねて休まずに来れていたのだがいよいよ天佑が足りなくなってきたのか。薬を飲んで横になって良くならない頭痛は手ごわい。全然良くなってないが休養室から抜け出し、自分の席に座る。昼飯も食べていない。青白い顔してゾンビのごとき手つきでマウスを動かすしかなかった。とにかく最低限をクリアして早退するしかなかった。
15時ごろ、ようやく仕事のめどがたったので、帰った。
8月のお昼の帰り道は、さぞ暑いだろうなと思っていたが、暑かった。
なんとか家に帰り、脳神経外科に向かった。病院に着いた。2年ほど前にMRIを撮ったが、また今回撮ることにした。待っている間じゅう、壁に頭をもたれていた。
ようやくMRIの順番が来た。前よりも短く感じたが、相変わらずうるさかった。
検査結果を待った。検査結果が出た。どこも異常はない。とりあえずよかった。
頭の筋肉の緊張からきているものかもしれませんということで、「クロルフェネシンカルバミン酸エステル錠」という薬が処方された。筋弛緩剤らしい。あと、僕にとっての世界樹の葉フェニックスの尾とも言うべき鎮痛剤「SG配合顆粒」もたくさん出してもらった。こんなにいいのってくらい出してもらって僕の中の世界が軽くインフレを起こした。
気休め程度に「クロルフェネシンカルバミン酸エステル錠」を飲んだ。次の日も「クロルフェネシンカルバミン酸エステル錠」を飲んだ。その次の日も「クロルフェネシンカルバミン酸エステル錠」を飲んだ。
すごいぞ!?「クロルフェネシンカルバミン酸エステル錠」!!!これを飲むと、ナロンエースを飲まずとも頭痛を抑えることができている!!!「クロルフェネシンカルバミン酸エステル錠」を飲んでからというもの、ナロンエースの消費スピードが明らかに激減した!!!
嫁さんが、久光製薬はいつもジャニーズがCMに起用されているけど、(故)ジャニーさんを維持するための薬でも提供しているのではないかと分析していたが、この「クロルフェネシンカルバミン酸エステル錠」が、僕を維持する薬になったと言っても過言ではない。この長い頭痛遍歴に、この長い名前の薬によってようやく終止符が打たれようとしている。問題なのは、この薬の名前を覚えられそうにないことだ。