少し大きいがハイチ人に仕立ててもらおう

曲は、それそのものは完成されたひとつの作品だが、それを初めて聴いた時、よほどの人でない限り一度では覚えられない。きれいに完成された曲が、頭の中に入っていく過程で粘土のようにぐにゃぐにゃになってしまう。
それがその人にとってのお気に入りの曲になるまで、その人の頭の中で格闘が始まる。他の似たようなメロディの曲に邪魔されながら、その曲がその人の記憶になっていくのだ。ああでもないこうでもないと粘土をこねていく。その過程が楽しかったりする。頭の中できれいにその曲が再現された時、カチッと音が鳴るような気がする。
そこで気付く。曲は、完成されたものではなく、その人が作っていくものなのだと。
少し視点を変えて、同じ曲を聴いてみる。
たとえば、後ろで鳴っている楽器に集中してみる。ギター、ドラム、それぞれに集中すると違う曲に聞こえてくる。
歌詞に注目してみる。聴いている時の気分やシチュエーションで、全然違う意味に聞こえたりする。
勝手に脳内でプロモーションビデオを作ってみる。きっと聴く人でまったく違うものになるはずだ。
ひとつの意味を持たず、聴く人それぞれに様々な解釈をもたらしてくれる。それぞれの小宇宙を見せてくれる。それが名曲と呼ばれるものなのかもしれない。