飛行機に乗らずに飛行機に乗る

僕は飛行機は好きだ。信じられないとは思うが、どの口が言ってんだと思われると思うが、好きなんだ。
空港の非日常感、飛行機が滑走路をウロチョロしてる無駄な手続き感、ロールスロイスという旨そうな名前のエンジンの音が上がっていく感じ、Gがかかってシートに押し付けられる感じ、すべてがたまらん。
だがある1点において、飛行機がどうしても好きになれないところがある。というのは飛行機は飛ぶという点だ。
さっき挙げた飛行機の好きなポイントも、よく見たら全部離陸前の儀式だ。そう、飛行機は離陸して空飛んでいくってところが我慢できないんだ。
なんで飛行機が飛ぶのが嫌なのかというと、メーデー!見た回数選手権をうちの会社で開いたら優勝する自信がある僕は、数々の航空事故を見てきて、あるひとつの結論に達したからだ。つまり、飛行機は飛ぶから事故を起こすんだ。要するに、飛行機が飛ばなければ事故は起きない。なんでこんな簡単なことに誰も気付かないんだろう?聞けば飛行機は最高800〜900キロ近く出せるらしい。新幹線の3倍だ。飛ばずに、そのまま走っていけばいいのに。
どうやら、大半の人たちはそれに気付いてはいるようなのだが、航空業界という悪の組織が頑として飛行機を飛ばすのをやめないらしい。とはいえ僕も飛行機は基本的には好きだ。離陸前の高揚感は何にも変えがたいものがある。離陸するのすら快感にも思えてくる。
だが飛行機に乗って飛んでしまうと、たとえ事故る確率は限りなくゼロに近いとはいえ、完全なゼロではなくなってしまうのだ。こんな巨大な物体が空を飛ぶのがとても現実とは思えず、飛行機が飛んでいるのは自分のただの思い込みで、目を覚ました瞬間飛行機が落ちるんじゃないかとかまで思える。怖い、でも飛行機は好きだ。
それなら、飛行機に乗らずに飛行機に乗ればいいんだ。
何をバカなことを言ってるんだ!と、サバンナ高橋に詰め寄る千原ジュニアのごとく怒られそうだが、まあ待ってほしい。
以前は、計器に影響を及ぼすおそれがあるとかで、電波を発する機器は離陸時や着陸時みたいな大事な時に使っちゃいけないという決まりがあったのだが、ここ最近、もう使っても大丈夫だよという電波のお告げを受けたどこかの誰かが、機器の使用制限を緩和したらしい。その中には、デジタルカメラとかも含まれていた。
これによって、離陸とか着陸とか、ファン垂涎のシーンを撮影することが可能になったのだ。
それで僕も、そんな動画を見て、飛行機に乗らずして飛行機に乗った気分を味わえるようになったのだ。
残念ながらそれでもやはり離陸前のGとかは味わえないので、そこは誰かに800キロの速度で椅子を押してもらうしかない。