紙葉の家

思えば、僕はスタイルばかりこだわる人間だった。物事の表層ばかりをこだわり、本質を理解しようとしなかった。恐ろしいことに、理解できなくていいとすら思っていたのだ――理解できないほど深みのあるものに触れたことに意義があるとか、とんだ勘違いを起こしていた。だから僕はシュールレアリスムな作品を好んでいた。主に、他人から超然としていたいという虚栄心からだ。
くだらない!!そのこだわりがなければ、僕はいくらかましな一般常識を持った人間になれていたに違いない。何事も本質を理解してから事は始めるべきであり、スタイル先行では何も身に付かないに決まっている。おかげで僕は、ろくに人の話も理解できないほど歪な感性しか持てなくなってしまった。
僕が高校生のときに買った『紙葉の家』という本がまさにそれだ。僕の虚栄心が災いし、その結果僕の手元にあり続ける本だ。4,600円(税抜き)もした。とにかくイカれた本だという噂だけをたよりに買った。スタイルだけを求めたとはいえ、よくそんな大枚をはたけたものだと感心してしまう。断っておくが、この本が悪い本だというつもりはなく、僕の下賤な購入動機が問題なのである。
というわけで僕は、そんな過去と訣別するために、12年も読まずに放置していたこの本と向き合った。
なるほどまったくわからん。読むという行為を真っ向から拒絶されるような奇妙極まりない本で、僕がスタイルだけを求めただけのことはある。初版で、帯もついている。別添の解説と訳者あとがきもちゃんとついている。送料は当方が負担いたします。僕は今、ヤフオクデビューを考え始めている。