5年前のこと

もうひとつ怖い話を書く。これは5年前の話だ。
僕はそのころ一人暮らしをしていた。今は嫁さんが家で待っているからまっすぐ帰るんだけど、そのころは帰りにレンタルビデオショップに寄ったりいろいろフリーダムなアフター5を謳歌していた。
で、その日は会社から家まで歩いて帰ろうとしたんだっけな。なんのためにそうしたか思い出せないけど、とにかく、2駅分歩こうとしたんだね。当時僕は妙な趣味を持っていて、通りかかって気になったアパートとかマンションの名前を検索して、築年数を調べていたんだね。いや今もやっているんだけど。そんなことして何が面白いのかと聞かれても説明は難しいんだけどね。
その日も歩きながらきれいなマンションとか、古そうなアパートとか見つけては、興味をひかれた建物の築年数を調べていたんだね。もう周りも暗くなっていたけど、かまわず歩いていたんだね。
20〜30分くらい歩いたころかな。なんか、すごく高い・・・なんて言えばいいのかな。ほら、あるじゃない。土砂崩れ防止のために固めた、板チョコ模様の斜めのコンクリート壁が。あれが見えてきてね。それが怖いくらい高くてね。思わず圧倒される高さだったよ。
おっこれはなんだろうと興味をひかれて、さらにその上を見上げると、ドーンとそびえるマンションが建っててね。難攻不落の城壁を備えた城みたいに見えたよ。僕はますます興味を掻き立てられて、その近くに行ってみたくなったんだね。
で、壁の周りを観察したけど、どこにも上がれそうなものは見当たらなかったんだね。こりゃあきらめるしかないかと思ったとき、壁に隙間を見つけたんだね。
僕はその隙間を覗いてみた。そしたら階段があったんだ。おっ、ここから上がれそうだと思った。
だが冷静に考えるとおかしいんだ。これだけ大きなマンションだったら人の通りも多そうなのに、その階段は電灯のひとつもなく、人通りもまったくなかったんだね。本当にここを上がってそのマンションの近くまで行けるのか?もう少し周りを調べてみるべきだったかもしれないが、今思うと僕はその隙間に呼ばれたような気がするんだ。吸い込まれるようにその中に入っていったんだね。
階段はそんなに急には見えなかった。カーブしていて頂上は見えなかったが、そんなに段数はなさそうに見えた。明かりがなくて不安だったが、とにかく上ってみたんだ。暗くて足元がおぼつかない。狭くて、ちょうど2人分くらいしか幅はなさそうだ。途中で誰かとすれ違うこともなかったよ。
で、頂上に着いた。だがそこは行き止まりだった。なんか、門だったかなんだったかがあって、その先は草ボーボーで進めそうになかったんだね。やっぱりここは正しい道じゃなかったんだと、引き返すしかなさそうだった。だがその先に何があるのかが気になって覗いてみたんだ。するとその先に・・・


石みたいな四角い影が、ズラーーーッといっぱい並んで見えたんだね。


僕は本能的にこれはヤバいと思って、あわてて駆け降りたよ。途中で誰かとすれ違ったらいろんな意味でヤバいけど、そんなことも考える暇もなかったね。
階段の下まで来たら、逃げるようにそこから立ち去ったよ。その日のことは、それ以外のことはよく覚えていない。彼女(のちの嫁さん)に癒しというか浄化を求めて電話でもしたんだろうか。
結局あれからその現場には行ってないので、あの影がなんだったのかわからない。でもあれだよね、たとえマンションであっても興味本位で人様の土地に入っちゃいけないって、思い知らされたんだよね。うん。