今日のお初 2022/7/16

「風船ガムを膨らませる」
この世の人間は二つに分けられる。風船ガムを膨らませることができる人間と、できない人間とに。僕は後者のまま墓に入るのだと思っていた。
しかし今日嫁さんの指導のおかげで、ついに、とうとう、自分の口から風船ガムを膨らませることに成功した。
思い返せば小学生時代……ガム自体は好きでよく噛んでいた。『バブリシャス』というガムだ。最近見ないと思っていたら6年前に日本で発売終了していたらしい……悲しい………それはとにかくこれは膨らませることができるガムだと思っていなかった。周りは膨らませられるのに、僕だけが膨らませられない。僕の技術に問題があるのだろうか。いやあまりに膨らませられないので、僕が膨らませられない個体のガムをたまたま毎回選んでいるのだろうとまで思うようになっていた。
ガムを膨らませる行為は、やんちゃではしたない不真面目ものだと思っていた。だからできる必要などないと思っていた。しかし、真面目を人にすると嫁さんになるくらい真面目な嫁さんが、ある日ガムを膨らませていたのだ。
嫁さんはガムを膨らませる行為と無縁と思っていた。僕は嫁さんを素直にカッコいいと思った。
僕は自分を恥じた…自分の技術不足を棚に上げ、ガムを膨らませることを不真面目な行為と決めつけ自分の面目を保とうとしていた自らのあさましさを。ガムを膨らませることは尊敬に値することだったのだ。
僕はそんな風にして今までいろんなチャレンジから逃げてきた。一輪車…竹馬…どれもこれも自分はできなくていいと思い込んできた。俺はいつまでも風船ガムを膨らませることから逃げ続けるのか。
尊敬する嫁さんに一歩近づきたい。その日は今日をおいて他にない。
嫁さんに教えを請うた。風船ガムを薄いスクリーン状に伸ばし、それを舌にまとわせ、舌をストローのように使い、息をガムに流し込むというのがポイントらしい。
頭でわかっていても、思うようにいかない。しかし王道などないのだろう。
何度やっても、口からニュとガムが出る。しかしガムに息を吹き込むという勘所を強く意識するようにした。
15分くらい経っただろうか。ついにその瞬間が訪れた。小さくはあったが確かに膨らんだ。膨らまない個体のはずのガムが、僕の口から膨らんでいた。
得意になってその後も何度かやった。20回に1回くらいの頻度だが膨らませることに成功した。最初に膨らませたよりも大きく膨らませることもできた。
少なからずプライドを取り戻すことができたかもしれない。嫁さんには感謝しかない。次は一輪車かな。





記念すべき僕の人生で初めて膨らませたガムの空き包装。息子の美容院でもらったものなので、当たってももう一個はもらえない。